観光案内所と思いきや風俗無料案内所!? 「松山市観光案内所」騒動から考えるパロディ商標
昨年、愛媛県松山市中心部の繁華街で、「松山市観光案内所」と名乗る主にキャバクラを紹介する無料案内所がオープンした。
当然ながら、JR松山駅で同名の公共施設を運営する松山市は、「市の関連施設と誤認されるおそれがある」として問題視。
風俗の店名やAVのタイトルなど、アダルト業界でよく見かける“パロディ名称”だが、その使用は法的にどこまで認められるのか? 境界線について、グラディアトル法律事務所新潟オフィスの清水祐太郎弁護士(以下、「」内)に聞いた。
「松山市観光案内所」の名称が保護されにくい理由
「弊所の依頼者の中にも、過去にパロディ的な店名の変更を求められた風俗店関係者がいました。ただ、今回の『松山市観光案内所』という名称の使用については違法性が認められにくく、結論として松山市側が強制的に名称変更させるのは難しかったようです」
名称の使用を法的に制限する明確な根拠はないとする松山市の見解。そのポイントは、パロディ元となった「松山市観光案内所」という公共施設の名称自体にある。
「こうした名称が法的に問題になる場合、商標法や不正競争防止法によって制限されます。どちらも社名や商品名、ブランドといった価値を守る法律です。ただ、『松山市観光案内所』は、地名と施設内容を組み合わせた一般的な名称です。オリジナリティは認められにくく、このネーミング自体を独占的に保護する必要性も低いと考えられます」
最近の商標関連の事件では、オーストラリアのファッションデザイナー、ケイティ・テイラー(旧姓・ペリー)が、同名のアメリカ人歌手ケイティ・ペリー(本名はキャサリン・ハドソン)に対し、自身の登録商標「KATIE PERRY」を侵害したとして提訴し、16年以上に及ぶ争いの末に勝訴したニュースが注目された。
日本でも、かつて[Champagne]名義で活動していたロックバンド[Alexandros]が、商標保護の観点から改名した例がある。
「仮に松山市が運営してきた『松山市観光案内所』が全国的に著名で、そのブランド価値が社会的に認知されていたなら、『松山市観光案内所』という語の組み合わせ自体が保護され、変更を求める余地もあったでしょう。ただ、今回のケースでは難しいと思います」
ちなみに、日本でもっとも有名なパロディ商標訴訟のひとつが、低価格時計ブランド「フランク三浦」をめぐる争いだろう。2017年3月、最高裁がフランク・ミュラー側の上告を退け、「フランク三浦」側の勝訴が確定した。価格帯やデザインの差異から、「両者の混同は生じない」と判断された。
「紛らわしさ」はどこまで問題になるのか
「フランク三浦」の判例は、日本でパロディ商標がどこまで許容されるかを示す重要な指標のひとつとなった。
「つまり、商標法などで問題になるのは、特徴的なデザインなどを模倣し、消費者の誤認を招くようなケースです。不正目的の使用として商標法違反が認められれば、権利者は差し止め請求ができ、名称使用を制限させることができます」
松山の無料案内所は、自治体が各地で運営する観光案内所のような外観も、市民らの間で問題視される一因となった。木目調の落ち着いたデザインのため、外国人観光客らが誤って入店してしまうケースもあったという。
「建物の外観については、不正競争防止法で保護される場合があります。たとえば過去には、コメダ珈琲店のような外観の喫茶店が訴えられ、違法と判断された例もあります。コメダ珈琲は特徴的な外観を持ち、全国的に著名なブランドのため、保護されやすかったのでしょう」
問題の案内所は「松山市観光案内所」から「松山二番町無料案内所」へと名称変更されており、名称の混同問題は解消された。ただ、インターネット上で確認する限り、建物外観に大きな変化はないようだ。
「成人向けの風俗案内所が、一種のジョークとして公的施設のような名称や店構えで営業すること自体は違法ではありません。ただし、風俗案内所や風俗店は風営法や条例で18歳未満の利用が禁じられています。あまりに紛らわしく、未成年者が立ち入った場合、それが摘発理由になる可能性はあります。とはいえ、『公共施設に似ていて分かりにくい』というだけで問題視するのは難しいでしょう」
「ブランドが消えても商標は残る」
これに限らず、風俗業界には大手コンビニやファミレスのロゴ・外観をもじって使用する店舗も少なくない。2014年にはかつて存在したコンビニチェーンam/pmの外観を模した厚木のセクキャバ「ompm」が登場し、SNSで話題となった。
「ブランド自体がなくなっても、登録商標は残り続けます。商標登録された名称を無断使用すれば違法となる場合があります。厚木の場合はロゴがかなり似ており、なかなか際どいケースかもしれません」
近年はセブンイレブンやファミリーマートが、ブランドカラーの組み合わせ自体を商標登録している例もあり、色使いだけでも商標法違反となる可能性があるという。
「権利者から訴えられなくても、こうしたパロディ系の風俗店は、警察から取り締まり対象として注視されやすい傾向があります。結果として風営法違反などがあれば、摘発につながりやすいリスクもあります」
なお、マンガのキャラクターなどIPの無断使用は、商標法や不正競争防止法ではなく、著作権法で規制される。町のパン屋がアンパンマンやポケモンのキャラクターを模したパンを販売することも、厳密には著作権侵害となる可能性がある。
ただ、これらに関しては権利者が黙認しているケースも少なくない。その一方で、著作者が望まない文脈(アダルト、政治的利用など)で使用された場合は、侵害リスクが一気に高まる。
「商標法や著作権法違反は、基本的には権利者の対応が出発点になります。パロディ使用でも、経済的損失やブランド毀損に至るほどの影響力がないため、結果的に見過ごされているケースも多い。最終的には権利者の考え方次第です」
パロディ制作者にとって、SNSで話題になること自体が戦略の一部なのだろう。だが、話題になる前に訴えられて敗訴するリスクもある。パロディビジネスは、かなり危うい綱渡りの上に成り立っているようだ。
(文=伊藤綾、取材・編集=サイゾーオンライン編集部)
